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2021-06-10

  • 全学科

【学長エッセイ】 繰り返し学習の有効性について

繰り返し学習の有効性について

2021年6月10日

 学長 田林 晄一


  客観的評価法の一つである種々の形式の記述式、また選択式試験は成績の優劣を明確に判断することができ、多くの資格試験等で用いられている。しかし、その様な評価法のみで良いのかという反省のもとに面接、学生時代のボランティア活動の有無、クラブ活動の実績、また生徒会・委員会等での活動実績を加味して評価する方向性になってきている。ただ、及第、合否、採否の判断に際して、記述式、また選択式試験のウェイトは高く、受験者にとって難儀なことになっており、これを乗り越えるには学習以外に有効な手段はなく、このことも難儀さを上げる大きな要因となっている。ただ、学習の結果、目指す資格等が得られた時の喜びは一入で、歓天喜地の気持ちとなる。学習効果を如何に上げるかが大きな課題で、種々の方法が報告されてきたが、最も有用とされているのが、繰り返し学習法による記憶の深さ、強さ、広さを高める方法である。解剖生理学的に記憶は海馬と大脳皮質が関与し、海馬は「馬の脳」と呼ばれる大脳辺縁系にあり、 タツノオトシゴのような形をしている。海馬という命名の由来はギリシャ神話に登場する海神ポセイドンが跨る海馬の前肢に似ているからとされている。 新しい記憶は海馬で整理整頓された後、大脳皮質に蓄えられる。記憶には頭で覚える「陳述的記憶」と体で覚える「手続き記憶」の2種類があり、難しい漢字、計算法を記憶するのが前者で、海馬は陳述的記憶の大切な役割を担っているが、この記憶は一度覚えても忘れてしまう性格を有している。その特性を変えることにより、記憶力の向上が得られるが、その一つの手段として繰り返し学習法が有効であることが報告されてきた。1985年、ヘルマン・エビングハウスは実験的に繰り返し学習により、学習したことを長く記憶に留めることができると報告し、エビングハウスの忘却曲線として表している。彼の実験によると、記憶は学習後1時間、1日、7日、1カ月の時点で、それぞれ56%、74%、77%、79%失うが、復習を学習後2日、7日、1カ月で行うと学習内容が90%保持されると報告している。池谷 裕二は自著「受験脳の作り方」で同様の報告を行い、 「記憶の干渉」と述べ、記憶力が最も上昇する復習法は学習後翌日、7日、14日、1カ月の4回復習であったと述べている。また、復習の手段として単に再学習するよりはテストを行った方が記憶力を上げる傾向があり、脳が出力を重視する臓器であることに由るだろうと推測している。


  上記の様に繰り返し学習が記憶力を改善することは現象として明らかであるが、脳生理学的には未解決な課題であった。しかし、2017年、渡辺武郎らは人を対象とした核磁気共鳴法による分析で、「何かを学んだ直後に別の学習をすると前に学んだことを忘れがちになる。だが忘れないように繰り返し学習(過剰学習)すると別の学習に妨げられずに学習効果を維持できることがわかった。学習直後の記憶は不安定で壊れやすいが、繰り返し学習することで素早く固定される」と報告している。


  一つの学習法として繰り返し学習法をすでに取り入れている方も多いと思うが、その方法は異なっているように思われる。上記で述べたように、方法論として最も重要な点は脳生理学的分析で「過剰学習」と報告されているように繰り返しの頻度であり、学習後少なくとも3~4回の復習は必要と考えられる。 今後の対策の一指標になれば幸いである。

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