保育士の年収はこれからどうなる?保育士業界の将来性と併せて解説
少子化が進む一方で、夫婦共働き世帯が増加の一途をたどる現代。共働き世帯にとって非常に重要な存在である保育士は、今後も需要が高まることが予想されています。
しかし「保育士の年収は低い」という話を耳にしたことのある方もいるかもしれません。実際のところ、保育士の年収はどの程度なのでしょうか。
そこで今回は、保育士の平均年収や将来性、保育士としての年収の上げ方や保育士の魅力などを詳しくご紹介します。
保育士の平均年収
2024年3月27日に政府より公表された統計データによると、2023年度における保育士の平均給与は、次の通りでした(※)。
- 月額:27万1,400円
- 年間賞与:71万2,200円
- 年収:396万9,000円
※参考:政府統計の総合窓口 e-Stat.「令和5年度賃金構造基本統計調査」.“賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種”.
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001213360&tclass2=000001215880&tclass3=000001215884&tclass4val=0 ,(参照2024-07-23).
以下の表からも分かる通り、保育士の平均給与は年々増加傾向にあります。この背景には、保育士の処遇改善や人材確保に向けた国の制度導入が関係していると考えられます。
年度 | 現金給与額※ | 年間賞与ほか特別給与額 | 年収 |
---|---|---|---|
2019年 | 24.45万円 | 70.06万円 | 363.4万円 |
2020年 | 24.98万円 | 74.74万円 | 374.5万円 |
2021年 | 25.65万円 | 74.40万円 | 382.2万円 |
2022年 | 26.68万円 | 71.21万円 | 391.4万円 |
2023年 | 27.14万円 | 71.22万円 | 396.9万円 |
※所得税や社会保険料などを控除する前の金額であり、手取りではありません。
ただし上記の平均給与はあくまでも全国・男女合計の数値であり、保育士の平均年収は年齢や地域などによっても異なります。
そのため、以下では「令和5年賃金構造基本統計調査」や「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」を基に、それぞれの区分別による平均給与を見ていきましょう。
年齢別
下記が2023年度の年齢別の平均給与です。金額は男女合計の金額となっています。
年齢 | 決まって支給する | 年間賞与ほか特別給与額 | 年収 |
---|---|---|---|
20~24歳 | 23.09万円 | 43.80万円 | 320.9万円 |
25~29歳 | 26.08万円 | 69.57万円 | 382.5万円 |
30~34歳 | 26.43万円 | 68.47万円 | 385.6万円 |
35~39歳 | 27.78万円 | 76.06万円 | 409.4万円 |
40~44歳 | 28.62万円 | 81.59万円 | 425.0万円 |
45~49歳 | 28.47万円 | 84.58万円 | 426.2万円 |
50~54歳 | 28.70万円 | 77.88万円 | 422.3万円 |
55~59歳 | 31.10万円 | 89.73万円 | 462.9万円 |
60~64歳 | 30.59万円 | 81.24万円 | 448.3万円 |
65~69歳 | 33.46万円 | 81.36万円 | 482.9万円 |
70歳~ | 37.54万円 | 132.99万円 | 583.5万円 |
上記の表で注目すべきは、20~24歳と25~29歳の年収の差です。年収が60万円近く大幅にアップしていることが分かります。その他の年齢についても、年齢が上がるに連れて年収は着実にアップしているようです。
※参考:政府統計の総合窓口 e-Stat.「令和5年度賃金構造基本統計調査」.“賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種”.https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001213360&tclass2=000001215880&tclass3=000001215884&tclass4val=0 ,(参照2024-07-23).
雇用形態別
保育士は、雇用形態によっても給与が変わります。具体的な雇用形態としては、正社員の他にも、パートや派遣、契約社員などがあります。もちろん、働く企業によっても給与は違ってきますが、平均年収の多い順に並べていくと、正社員、契約社員、派遣社員、パートとなるでしょう。
なお近年は個人でベビーシッターの仕事を請け負う方もいます。その場合働き方によっては、一般的なパートで働くよりも高い報酬が得られる可能性があります。
男女別
2023年度の男女別の平均給与は次の通りです。
| 決まって支給する現金給与額 | 年間賞与ほか特別給与額 | 年収 | 母数(労働者数) |
---|---|---|---|---|
男性 | 30.66万円 | 80.60万円 | 448.5万円 | 1万8,160人 |
女性 | 26.89万円 | 70.55万円 | 393.2万円 | 25万5,990人 |
母数で比較すると圧倒的に女性保育士の方が多いですが、男性保育士の方が月額で4万円程度、年収では55万円程度高いことが分かります。
※参考:政府統計の総合窓口 e-Stat.「令和5年度賃金構造基本統計調査」.“賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種”.https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001213360&tclass2=000001215880&tclass3=000001215884&tclass4val=0 ,(参照2024-07-23).
役職別
続いては、役職別による年収の違いです。保育施設における役職のトップは施設長(園長)であり、次が主任保育士です。例えば2019年度の常勤の施設長と主任保育士では、次のような差があります。
役職 | 平均勤続年数 | 月額(賞与含む) | 年収 |
---|---|---|---|
施設長(私立) | 25.8年 | 56万5,895円 | 679万740円 |
施設長(公立) | 31.8年 | 63万2,982円 | 759万5,784円 |
主任保育士(私立) | 21.7年 | 42万2,966円 | 507万5,592円 |
主任保育士(公立) | 25.1年 | 56万1,725万円 | 674万700円 |
いずれも平均勤続年数は20年を超えていることが分かります。年齢だけではなく、勤続年数によっての年収の違いも次の項目で見てみましょう。
※参考:政府統計の総合窓口 e-Stat.「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」.“私立・公立保育所 総括表”.https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00100110&tstat=000001156146&cycle=0&year=20191&tclass1=000001156167&tclass2val=0 ,(参照2024-07-23).
勤続年数別
続いては2023年度の勤続年数別の給与データです。初年度から勤続15年以上の給与の平均は次の通りです。
勤続年数 | 所定内の給与※ | 年間賞与ほか特別給与額 | 年収 |
---|---|---|---|
0年 | 21.84万円 | 4.10万円 | 266.2万円 |
1~4年 | 23.72万円 | 61.16万円 | 345.8万円 |
5~9年 | 25.48万円 | 66.11万円 | 371.9万円 |
10~14年 | 26.44万円 | 73.44万円 | 390.7万円 |
15年以上 | 30.40万円 | 98.93万円 | 463.7万円 |
※残業を含まない月収
初年度と比較すると、1年以上勤務した後で年収が大幅にアップしていることが分かります。長く働けば働くほど、給与も上がっていくことが期待できるでしょう。
※参考:政府統計の総合窓口 e-Stat.「令和5年度賃金構造基本統計調査」.“賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種”.https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001213360&tclass2=000001215880&tclass3=000001215884&tclass4val=0 ,(参照2024-07-23).
地域別
保育士の平均給与はどの地域で働くかによっても金額に大きな差があります。以下では、年収の高い順に都道府県別の保育士の平均年収をご紹介します。
順位 | 都道府県 | 決まって支給する現金給与額 | 年間賞与ほか特別給与額 | 年収 |
---|---|---|---|---|
1位 | 東京都 | 31.58万円 | 74.51万円 | 453.5万円 |
2位 | 京都府 | 30.27万円 | 89.60万円 | 452.8万円 |
3位 | 広島県 | 29.15万円 | 102.99万円 | 452.8万円 |
4位 | 和歌山県 | 29.83万円 | 91.93万円 | 449.9万円 |
5位 | 大阪府 | 29.15万円 | 78.18万円 | 428.0万円 |
6位 | 神奈川県 | 29.12万円 | 67.27万円 | 416.7万円 |
7位 | 群馬県 | 25.67万円 | 107.01万円 | 415.1万円 |
8位 | 兵庫県 | 27.30万円 | 83.02万円 | 410.6万円 |
9位 | 静岡県 | 25.58万円 | 90.38万円 | 397.3万円 |
10位 | 愛知県 | 26.98万円 | 71.36万円 | 395.1万円 |
11位 | 山口県 | 25.13万円 | 93.50万円 | 395.1万円 |
12位 | 宮城県 | 27.94万円 | 56.61万円 | 391.9万円 |
13位 | 福岡県 | 25.67万円 | 83.32万円 | 391.4万円 |
14位 | 長野県 | 26.87万円 | 67.62万円 | 390.1万円 |
15位 | 千葉県 | 28.19万円 | 49.95万円 | 388.2万円 |
16位 | 宮崎県 | 25.16万円 | 84.52万円 | 386.4万円 |
17位 | 奈良県 | 26.33万円 | 67.63万円 | 383.6万円 |
18位 | 福井県 | 24.37万円 | 88.45万円 | 380.9万円 |
19位 | 佐賀県 | 25.23万円 | 77.24万円 | 379.9万円 |
20位 | 熊本県 | 25.03万円 | 79.49万円 | 377.9万円 |
21位 | 埼玉県 | 26.77万円 | 56.66万円 | 372.4万円 |
22位 | 愛媛県 | 24.33万円 | 81.94万円 | 373.9万円 |
23位 | 茨城県 | 25.50万円 | 66.37万円 | 370.6万円 |
24位 | 長崎県 | 24.76万円 | 73.65万円 | 372.4万円 |
25位 | 高知県 | 25.06万円 | 69.91万円 | 370.8万円 |
26位 | 富山県 | 23.75万円 | 85.52万円 | 370.5万円 |
27位 | 滋賀県 | 25.23万円 | 66.31万円 | 369.1万円 |
29位 | 福島県 | 25.59万円 | 59.42万円 | 366.5万円 |
30位 | 岩手県 | 25.13万円 | 60.36万円 | 361.9万円 |
31位 | 北海道 | 25.29万円 | 57.32万円 | 360.8万円 |
32位 | 香川県 | 24.42万円 | 65.85万円 | 358.9万円 |
33位 | 鳥取県 | 24.60万円 | 62.94万円 | 358.1万円 |
34位 | 徳島県 | 23.50万円 | 75.37万円 | 357.4万円 |
35位 | 島根県 | 22.87万円 | 78.28万円 | 352.7万円 |
36位 | 岡山県 | 23.60万円 | 67.69万円 | 350.9万円 |
37位 | 石川県 | 24.63万円 | 51.11万円 | 346.7万円 |
38位 | 新潟県 | 22.20万円 | 77.91万円 | 344.3万円 |
39位 | 大分県 | 23.62万円 | 57.85万円 | 341.3万円 |
40位 | 沖縄県 | 24.48万円 | 46.56万円 | 340.3万円 |
41位 | 三重県 | 22.98万円 | 64.06万円 | 339.8万円 |
42位 | 山梨県 | 24.74万円 | 42.63万円 | 339.5万円 |
43位 | 秋田県 | 21.89万円 | 71.31万円 | 334.0万円 |
44位 | 鹿児島県 | 22.37万円 | 58.37万円 | 326.8万円 |
45位 | 岐阜県 | 22.82万円 | 50.77万円 | 324.6万円 |
46位 | 青森県 | 21.77万円 | 56.49万円 | 317.7万円 |
47位 | 山形県 | 23.49万円 | 28.44万円 | 310.3万円 |
最も年収が高いのは東京都の453.5万円で、最も低いのは山形県の310.3万円でした。
給与を重視するのであれば、まずは自分が住んでいる地域や、通える範囲にある保育施設を比較してみることをおすすめします。その上で、他の都道府県の保育施設の求人情報を集め、最終的な勤務希望地を決定すると良いでしょう。
※参考:政府統計の総合窓口 e-Stat.「令和5年度賃金構造基本統計調査」.“賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 都道府県別”. https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001213360&tclass2=000001215880&tclass3=000001215890&tclass4val=0 ,(参照 2024-07-23).
保育士業界の将来性
結論から述べると、保育士は将来性のある職業の一つであると考えられます。
一つ目の理由には、共働き世帯が急増していることが挙げられます。共働き世帯の数は、2000年では942万世帯でした。しかし2021年には1,247万世帯にまで増えています(※)。共働き世帯の場合、保護者が働いている間は子どもを保育施設に預ける必要があるでしょう。従って保育所は必要であり、そこで働く保育士もまた重要な役割を持っているのです。
保育士の業務は、AIなどで代替できない仕事が多いことも理由の一つです。保育士は人が成長していく上で重要な幼児期のサポートを行うことから、業務の簡素化は難しいと考えられます。もちろん出欠連絡などの部分でICT化が進んでいる保育所もありますが、子どもたちと向き合う保育の部分のシステム化は難しいといえるでしょう。
さらに保育士は給与が低いというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、現在政府が処遇の改善に向けて動いているため、給与は年々上昇傾向にあります。この動きは今後も続いていくことが予想されます。
※参考:厚生労働省.「図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移」.https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/backdata/02-01-01-03.html ,(参照2024-07-19).
保育士としての年収の上げ方
保育の仕事には興味があるものの、年収アップを狙えるかどうかという観点で、保育士を目指すべきか迷っている方もいるでしょう。しかし保育士は次のような方法で年収を上げることが可能です。
1.経験を積む
まず保育士が年収アップをする方法として一般的な方法は、経験を積むことです。前の表からも分かるように、保育士は経験年数が増えるほど年収もアップすることが一般的です。
さらにクラス担当や役職に就くことができれば、手当をもらえ、年収をアップさせられるでしょう。特に認可保育園では、「処遇改善加算I」によって、勤続年数に応じて年収を加算していく仕組みがあります(※)。
※参考:厚生労働省.「「介護職員処遇改善加算」のご案内」.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000199136.pdf ,(参照2024-07-19).
2.資格取得などで手当をもらう
保育士が年収をアップさせる方法として、資格取得を行う方法もあります。勤務場所によってどの資格があれば手当がもらえるかは異なりますが、例えば次のような資格を持っている場合、手当が付く場合もあるでしょう。
- チャイルドマインダー
- リトミック指導員
- 絵本専門士
- こども環境管理士
さらに保育士資格しか持っていない方の場合は、幼稚園教諭資格を取得する方法も一つの手です。近年は認定こども園が増加しているため、保育士と幼稚園教諭の両方の資格を持っている方が、活躍の場が広がるのです。
3.転職をする
最後に転職するのも一つの方法です。特に「保育士として勤務してきたが、何年たっても給与があまり変わらない」という場合は思い切って転職を考えても良いかもしれません。
なお給与が上がらない場合は、勤務している園で資格手当がなかったり、キャリアアップについての条件がなかったりして給与に反映されていない可能性があります。このような場合も、キャリアアップの仕組みが整った園に転職を検討してみると良いでしょう。
保育士の年収が低いといわれる理由と対策方法
保育士になるためには国家資格を取得する必要がありますが、保育士の年収が低いイメージがある理由の一つは、前述のように地域や年齢によって年収の差が大きいことが挙げられます。
また保育所は一般の企業とは異なり、利益を出すことだけを目的として運営しておらず、国の補助金や保護者からの保育料を得て運営を行っています。そして園児一人当たりの保育料は、公定価格の制度によって一律化されているため、園側が保育料を上げたくても、希望が通らない仕組みになっているのです。
その他にもさまざまな理由がありますが、このような状況下で保育士の年収をアップさせるためには、前述の通りできるだけ長く勤務することや、資格取得によって手当が付く園で働くこと、経験を積んで役職に就くことが必要です。
年収が低いイメージがあっても保育士が人気の理由
前述の通り年収が低いイメージがある保育士ですが、保育士を目指す方は後を絶ちません。学生の頃から保育士を目指す方はもちろん、社会人になってから保育士を目指す方もいます。
まずは「子どもが好き」という理由で保育士に憧れる方が保育士を志望する傾向にあるためです。具体的には、子どもと遊ぶことが好きであったり、子どもたちの成長を見届けることにやりがいを感じたりする方が多いでしょう。
キャリアの面では、一度資格を取得すれば、年齢を重ねても働きやすいという点にメリットを感じる方もいます。加えて保育所やこども園といった保育士の職場は、日本全国にあります。家族の都合などで生活の状況に変化があっても、アルバイトや派遣などを含め柔軟な働き方ができるという点も、保育士が人気の理由であるといえるでしょう。