言語聴覚士はことばによるコミュニケーションや摂食嚥下に問題を抱える方々の社会復帰をサポートし、その人らしい毎日を送れるよう支援する専門職です。
言語聴覚士になるには国家資格の取得が必要です。資格の取得には一定の条件を満たす必要があり、条件を満たせば社会人でも言語聴覚士を目指せます。
そこで今回は、社会人から言語聴覚士を目指す際の主なルートやメリット、注意点などを詳しく解説します。社会人で言語聴覚士の資格を取得するかどうか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
社会人からでも言語聴覚士は目指せる
言語聴覚士は社会人からでも目指すことが可能です。そのため、ある程度社会人経験を積んだ方が、何らかのきっかけで言語聴覚士の仕事に興味を持ち、言語聴覚士を目指すケースもあるでしょう。
言語聴覚士は1997年から国家資格となりました(※)。歴史がまだ浅いため、社会人になってから言語聴覚士という職業を知った方もいるかもしれません。
言語聴覚士の国家試験を受けるためには、一定の条件を満たす必要があります。従って、社会人はまず、受験資格を得るところからスタートすることになるでしょう。
※参考:一般社団法人 日本言語聴覚士協会.「言語聴覚士とは」.“言語聴覚士数の推移”.
https://www.japanslht.or.jp/what/ ,(参照2024-07-17)
通信教育や独学では言語聴覚士にはなれない
言語聴覚士になるには、まず受験資格を得ることが必要です。しかし言語聴覚士の受験資格は通信教育や独学では得ることができません。
言語聴覚士は国家資格のため、国家試験を受ける必要があり、その国家試験を受験するための条件は「言語聴覚士法」によって定められています。言語聴覚士法によると、言語聴覚士の国家試験を受験するためには、以下のいずれかを卒業しなければいけません。
- 文部科学大臣が指定する学校
- 都道府県知事が指定した養成所
受験資格を得るためには、受験資格を取得するために必要なカリキュラムの履修や、実際に医療機関や施設に実習に行く必要があるため、どのような学歴を持っていたとしても、通信教育や独学では言語聴覚士にはなれないという点をまずは覚えておきましょう。
社会人が言語聴覚士になるためのルート
社会人が言語聴覚士になるためのルートは、大きく3つに分かれます。最終学歴や履修済みの科目によってルートが異なるので、自分が当てはまる項目を確認してみてください。
1. 3~4年制の大学や短期大学、専門学校で学ぶ
まずは高校卒業後、あるいは高卒認定を受けた方が、文部科学大臣が指定する短期大学や大学、あるいは都道府県知事が指定する言語聴覚士養成所(3~4年制)を卒業する方法です。これらを卒業すると、言語聴覚士の国家試験を受験するための資格が得られます。
4年制と3年制の大きな違いは、一般教養科目の時間や履修数です。4年制の大学では、言語聴覚士として知っておかなければならない、解剖学や病理学などの必須科目の他、社会学や福祉学、心理学といった一般教養的な科目についても学びます。また4年間ということもあり、時間に余裕を持って学習しやすい傾向です。
3年制の学校では、実習や技術を効率良く学べるカリキュラムになっていることが多いようです。つまり就職時に即戦力として働けるような学校であるといえるでしょう。また4年制の大学と比較すると、時間が短い分、国家試験に向けた試験対策や、就職に向けたサポートが早期から行われることが多いという点も大きな特徴でしょう。
2. 4年制一般大学+2年以上の指定養成施設に通う
次に4年制の一般大学を卒業している方の場合は、2年制あるいは3年制の養成施設を卒業することで、言語聴覚士の国家試験を受験するための資格が得られます。なお4年制の一般大学を卒業した方の場合、進学先は養成施設に限りません。改めて、3~4年制の大学や短期大学に進学し、学ぶことも可能です。
また2年制の言語聴覚士のプログラムがある専門学校や短期大学においては、社会人経験のある方が通っているケースも珍しくありません。中には夜間部のある学校もあります。
3. その他
医療系の大学を卒業しており、さらに決められた履修分野の一部を履修している方の場合は、1年制の短期大学に通えば、言語聴覚士の国家試験を受験するための資格を得ることが可能です。ただし1年制の短期大学で言語聴覚士の履修を取得できる学校は限られているため、多くの場合は2年制の大学や専門学校に進学することになるでしょう。
言語聴覚士になるためには国家試験に合格する必要がある
言語聴覚士は、大学や短期大学、養成校を卒業するだけではなれません。学校の卒業はあくまでも受験資格を取得するための過程であって、受験資格の取得後は、国家試験を受験し、合格する必要があります。
試験の結果は厚生労働省サイトの資格・試験情報ページで発表され、合格者には合格証書のハガキが届きます。その後、合格者は公益財団法人医療研修推進財団へ言語聴覚士免許を申請。申請書類の審査後、厚生労働省が管理する言語聴覚士名簿に登録されます。その数カ月後に、厚生労働省から発行された免許証が手元に届くという流れです。
国家試験の概要
言語聴覚士国家試験は、1年に1回実施されています。例年は、9月上旬頃に厚生労働省より試験の概要が発表。11月下旬~12月上旬に願書提出、2月中旬に試験、3月下旬に合格発表という流れになっています。なお解答は合格発表時に厚生労働省のホームページで確認できます(※1)。
試験会場は、北海道と東京都、愛知県、大阪府、広島県、福岡県で、試験科目は以下の通りです(※2)。
- 基礎医学
- 臨床医学
- 臨床歯科医学
- 音声・言語・聴覚医学
- 心理学
- 音声・言語学
- 社会福祉・教育
- 言語聴覚障害学総論
- 失語・高次脳機能障害学
- 言語発達障害学
- 発声発語・嚥下障害学及び聴覚障害学
試験時間は午前と午後に150分間で行われ、上記の科目の中から基礎科目が100問、専門科目が100問の合計200問がマークシート形式(5択)で出題されます。採点は1問1点の200点満点で、合格ラインは120点以上とされています。
※1 参考:厚生労働省.「資格・試験情報」.“医療、医薬品、健康、食品衛生関連”“言語聴覚士国家試験”.
https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/gengochoukakushi/ ,
(参照2024-07-18)
※2 参考:厚生労働省.「言語聴覚士国家試験の施行」.“2 試験地” “3 試験科目” “6 合格者の発表”.
https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/gengochoukakushi/ ,
(参照2024-07-18)
言語聴覚士国家試験の難易度
言語聴覚士の直近の5年間の合格率は次の通りです。以下は、厚生労働省の発表を基に、言語聴覚士国家試験の受験者数、合格者数、合格率をまとめたものです(※1)。
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2020年 | 2,486人 | 1,626人 | 65.4% |
2021年 | 2,546人 | 1,766人 | 69.4% |
2022年 | 2,593人 | 1,945人 | 75.0% |
2023年 | 2,515人 | 1,696人 | 67.4% |
2024年 | 2,431人 | 1,761人 | 72.4% |
過去5年間の合格率を見ると、合格率は7割程度であることが分かります。なお2024年の各国家試験の合格率は、言語聴覚士が72.4%であるのに対し、理学療法士が89.2%、作業療法士が84.1%(※2)となっており、言語聴覚士国家試験の難易度はやや高いといえるでしょう。
※1 参考:厚生労働省.「国家試験合格発表」.
https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/goukaku.html ,
(参照 2024-07-21).
※2 参考:厚生労働省.「第59回理学療法士国家試験及び第59回作業療法士国家試験の合格発表について」.
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2024/siken08_09/about.html ,
(参照 2024-07-21).
社会人が言語聴覚士になるメリット
社会人から言語聴覚士になるメリットはさまざまです。ここでは4つのメリットを解説します。
社会人経験を役立てられる
言語聴覚士の仕事内容と全く違う仕事をしてきたという方でも、社会人経験を役立てることができます。例えば、コミュニケーション能力は言語聴覚士の仕事をする上で欠かせないスキルです。また、物事を注意深く観察する能力や、分かりやすく説明する能力なども役立つでしょう。
女性が長く働き続けられる
言語聴覚士の仕事は基本的に夜勤がなく、就業時間も規則的であることが多いようです。
言語聴覚士はおおよそ8:2の割合で女性が多く(※)、産前産後休暇や育児休暇などのシステムが整っている傾向にあります。中には、託児所が併設されている職場もあるようです。仮に出産や育児によって一時的に休職するようなことがあっても、再就職は比較的容易であるといえるでしょう。
※参考:一般社団法人 日本言語聴覚士協会.「会員動向(令和6年3月31日現在)」.
https://www.japanslht.or.jp/about/trend.html ,(参照 2024-07-21).
医療・福祉・教育の現場でのニーズが高く転職がしやすい
言語聴覚士の仕事は、介護福祉施設や訪問リハビリテーション、児童関連施設などを中心に、今後ますます活躍の場が広がることが予想されます。理学療法士や作業療法士と比較しても人数の割合が少なく、需要の高い職種であるため、比較的就職や転職もしやすいでしょう。
長期的なキャリア形成が可能
言語聴覚士の仕事は、長期的に働き続けることによってさまざまな知識やスキルが身につき、キャリアアップにもつながります。長く働けば働くほど給与がアップしたり、任せられる仕事も増えたりすることが考えられるため、あらゆるフェーズにおいてやりがいを持って働き続けられるでしょう。
何より言語聴覚士は自分が関わった患者さんが訓練を通して生活しやすくなったり、状態が改善したりする様子を身近で見られる仕事です。そのため仕事のやりがいを感じやすく、長く働くためのモチベーションアップにもつながるでしょう。
社会人経験者が言語聴覚士になるときの注意点
社会人経験者が言語聴覚士を目指す際に、事前に注意しておきたいポイントがあります。ここからは、社会人経験者が言語聴覚士になる際の注意点を解説します。
現在の職場の退職時期に注意する
社会人から言語聴覚士へと転職する場合は、現在の仕事を辞めなければなりません。収入が途絶えることになるため、自身の生活を成り立たせるための準備が必要になります。退職の時期に注意しながら、生活を支えるための方法を考えておきましょう。
学費の準備が必要
社会人から言語聴覚士を目指す場合は、大学や短期大学、養成機関などに入学する必要があります。そのため学費の準備が必要です。
まずは、あらかじめどの程度の学費が必要かを確認しましょう。もしお金が足りない場合は、ローンの利用も検討することになるかもしれません。
なお雇用保険に3年以上(初めて申請する場合は2年以上)加入していた場合は、「専門実践教育訓練給付金」を受給できる可能性があります。詳細についてはハローワークに問い合わせてみましょう(※)。
※参考:ハローワーク インターネットサービス.「教育訓練給付制度」.“専門実践教育訓練給付金について”.
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_education.html ,(参照2024-07-18)
言語聴覚士になるには、国家試験の受験資格が必要
言語聴覚士になるには国家試験の受験資格が必要で、社会人から言語聴覚士を目指すには一定の時間や学費が必要です。しかし社会人から言語聴覚士になった方も多く存在するため、決して無理なことではありません。
まずは自分がどのルートで国家試験の受験資格が得られるのかを確認し、どの養成校で学ぶのかを決めるところからスタートしましょう。
仙台青葉学院短期大学では、経験豊かな専任教員の指導により、最短3年間で言語聴覚士国家試験受験資格を取得できます。また、キャリアアップを目指す社会人の方を経済的に支援することを目的とした授業料特別減免制度もあります。言語聴覚士の資格を取りたいと考えている方は、ぜひお問い合わせください。